ワタシは元来ネコ嫌いであった。
あの鳴き声がしゃくに障る。
だいたいが「化け猫」「泥棒ネコ」「猫なで声」ネコに関するものにろくなものがない。
「招き猫」なんて縁起担ぎもあるにはあるが「暮れのじゃんぼ」も見事にはずれた。
それに、家ん中でけだものがのし歩くなんて、不衛生この上ないと思っている。
おしりをなめた舌でぺろりなんてホッペにされたら卒倒ものである。
ネコを飼えない理由は他にもある。
長女が極端なネコアレルギーで、家人もそれを知っているから
あぁ、こんなことになるとは夢想だにしなかった・・・
それが何事も無頓着な末子のせいで、いつしかワタシの家にもネコが居着き
ネコ嫌いの家にネコが居着く狂気の沙汰である。
AB型の末子には、我が家の隠れた御法度なんて斟酌する知恵など微塵もないようだ。
はじめは、末子は自分の部屋に隠れ住まわせていた。
それが通せるとでも思っていたか?
そんなものは僅か一ヶ月ほどで雲散霧消。
ネコはカゴから出て、末子の部屋からもでて、今じゃ家ん中じゅう走り回っている。
ネコの発覚が遅れたのは末子の隣部屋の長女が一年ほど前から長期出張中、気づくのが遅れた。
今となっちゃあ手遅れなのである。
ネコの被害は居間が甚大である。
角が付いた壁は登りやすいらしく、天井まで駆け上り、登ったり下りたりで壁紙はささくれだって毛羽立ち、見る影もない。
カーテンは糸が引けてこれもひどいことになっている。
困った家人は初め、ペットショップの爪研ぎなどを買い与えていたが、奴はそんな物には見向きもしない。
居間の4カ所の壁がお気に入り、怒られても怒られても3歩歩けば忘れる。
居間だけに今じゃワタシも怒ることに疲れ果てた。
居着いて三ヶ月にもなると云うに、だれもこのネコを名前で呼ばぬから、まだ正式の名前はないようだ。
優柔不断の飼い主に関わると肝心のことが肝心でなくなる。
飼うなら名前ぐらいちゃんとしたらどうだ!?
だから「おまえは誰だ?」にかけて「ふぅ」と呼ぶ。
ネコ嫌いのワタシだけが「ふぅ」と呼ぶ不思議。
「ふぅ」は朝方居間の壁を2~3度駆け上り、ワタシのイスでひとしきり爪を研いで、今日はやけに静かである。
みればもう次女のイスで昼寝を決め込んでいる。
ワタシはそれを見て「ふぅ~」とため息をついた。